第82章 夢幻泡影
再び靴を履くと、不思議と足の重さがなくなっているのに気が付いた。
着替えていた部屋を出ると(試着室、ではないようだったけれど、なんていう名前なのかな……)、変わらぬ熱気が頬を打ったけれど、さっきよりは不快じゃなくなってる。
私はヤマアラシ、涼太はハリネズミの顔のキャップを被って、いざ出陣。
普段絶対着ないような鮮やかなTシャツが、ちょっと眩しく感じて。
「みわ」
涼太はそう言って、左腕の肘を少し持ち上げた。
……これって……?
「ほら、行くっスよ」
ひょいと右手を掴まれて、そのまま涼太の左腕の二の腕を……って、これって、腕を組む、という、あの、あれでしょうか!?
「りょ、涼太」
「オレ、あれに乗りたいんスよね」
反論さえも聞き入れられず、通した手もかっちり固定されてしまい、どうにも出来ない。
「いこ!」
太陽みたいな笑顔に誘われて、頬と気持ちが緩む。
甘えちゃって……いいのかな……。
いっぱい、楽しい時間を過ごしたい。
気が付かれないように、組んだ腕に少しだけ力を込めた。
涼太が向かったのは、どうやらお子さんも乗ることの出来る、優しいアトラクションみたい。
列に並んでいるのは、殆どが子連れだ。
入り口の看板には待ち時間が20分と書いてあったけれど、10分ほどを過ぎた頃に、乗り場が目に入ってきた。
どうやら、川?のような道を、二人乗りの丸太型の小さな船に乗って移動するみたい。
ハンドルがないところからすると、恐らく自動制御で動くのだと思うけれど……?
「みわ、足元気をつけて」
「うん」
涼太に手を引かれ座席に座ると、スタッフの方がすぐにお腹のところまで金属のバーをおろしてきた。安全バーみたい。
ゆらゆら、私たちを乗せた船はゆっくりと進み出した。