第82章 夢幻泡影
カーテンの中はとっても広くて、普段洋服を買う時に利用する試着室の3〜4倍くらいはありそう。色合いが優しくて、カーテンにも壁にも鏡のふちにもいるキャラたちが笑いかけてくれているみたいだ。
でも、その中でもカーペット張りになっているのは床面積の半分くらいで……もしかしたら、車椅子やベビーカーのお客さんが利用しやすいようになっているのかな。
「はいコレ、みわの分っスよ」
「は、はいっ」
手渡されたTシャツも帽子も、きちんとタグが切られている。
緊張していたからか、レジでの涼太と店員さんのやり取りを全然覚えていない。
ファンの子に見つかったらどうしよう、とかそんな事ばかり考えていたからだ。
「これ着たら、もうオレたちは夢の国の住人なんスよ。今日はさ、なんにも気にせず楽しく遊ぼ」
どきり、こころの中を読まれてしまっていたかのような言葉だ。
さっきからずっと、周りのことばかり気にしていた。
そうだよね、有名人にだって、プライベートがあるもの。
せっかくの涼太との時間、楽しく過ごしたい。
……でも……
「ここ、で着替えるの? っわ、わあ」
振り返った途端目に入って来たのは、涼太の裸の上半身。
慌てて目を逸らしたけれど、その視線の先にあった鏡にまた同じものが映ってきて。
「なに今更照れてんスか? ダイジョーブ、襲ったりしないっスよ、お楽しみは夜にね」
囁かれた耳が焼かれたみたいに熱くて、勘違いしていた自分に気がついて、頬まで熱くなってくる。
恥ずかしい、意識しすぎだ。
ささっと、着替えてしまおう。
涼太は今、着ているものを畳んでいるところだ。今のうちに……。
彼に背を向けて、ブラウスのボタンを急いで開ける。