第82章 夢幻泡影
雲ひとつない青空……ではなく、今日は濃い青色のキャンバスに少しの水と白い絵の具を散らしたみたいな空だ。
良かった……並んでいる間、直射日光にずっと悩まされる、という事態になるのは避けられそう。
パーク正門がある広場は、沢山の来場者に備えて、まるで高校のグラウンドのように開けた場所だった。
お城の柵のような門の向こう側に見える景色は、神秘的で夢の中みたいだ。
なんだか更にドキドキしてきた。
「涼太、すごく広いん……」
涼太を見上げようとした途端、教会のベルのような、優しく荘厳な鐘の音が響いたと同時に、人の波がうねり始めた。
開園だ、そう思って視線をパーク正門に向けると、目の前に広がったのは、天に向かう無数のカラフルな吹き出し。
……吹き出しに一瞬見えたのは、風船だった。
赤、青、黄色……まるで花壇のように華やかな球体は、皆の歓声を詰め込んで遥か彼方へ運んで行くみたいに、どこか楽しそうに見えた。
「開いたっスね。行こ!」
「あっ、うん!」
手は重ねたまま、少し周りは気になるけれど……私たちも正門を通って、夢の国へ足を踏み入れた。
「わ、わ、あ」
正門を抜けると、ここも先ほど私達が居た場所と同じくらいの広さの広場になっていた。
大きなキャラクターの着ぐるみがあちこちに居て、それを取り囲むかのようにいっぱいのお客さん。
制服姿の子もいる……修学旅行なのかな。
ちょうど開園したばかりで、一番混雑しているのかも。
「写真はまた後っスかね」
「うん」
さっきからうんしか言ってない気がするけれど……。
「ちょっとここ寄ろ」
涼太は、あるアトラクションの前にある券売機のような機械から紙を2枚引き出して、またその場を離れていく。
並ぶんじゃ、ないのかな……?
「あーこれはラピッド・チケって言って……うーん説明すると長いんスけど、後からあんまり並ばずに入れる券なんスわ」
あ、ちょっとホームページで読んだ……予めこのチケットを取っておくと、券面に記載されている時間の間、並ぶ時に優先的に通して貰えるっていう、あれだ。
それを伝えると涼太はにこにこと笑顔のまま、お店のような建物へ足を向けた。