第82章 夢幻泡影
「あ、オハヨ。寝れた?」
「うん、また……寝ちゃって……いつも、ごめんなさい」
スマートフォンから顔を上げたから向けられたのは、太陽みたいな笑顔。
太陽と言えば……駐車場の隙間から差し込むのは朝日だろう。
あれから、随分とぐっすり眠ってしまったみたい。
「いいんスよ、これから目一杯遊ぶのに、寝不足じゃシンドイっスからね」
「……ありがとう」
やっぱり、寝不足だっていうのはお見通しだったみたいだ。
でも、お陰で頭も身体もスッキリしている。
「やっぱり、そうやって"ごめん"より"アリガト"のがいいっスね」
その言葉に返事をする前に、行こっかと言って涼太はドアを開けた。
軽くなったはずの足を地につけると、ふくらはぎのあたりに少しだけ重みを感じた。
ずっと車の中に居て、むくんでしまったのかも。
後で、涼太のマッサージを丹念にしないと……。
忘れ物がないようにと鞄とシートの周りを見渡していたら、助手席のドアがひとりでに開いた。
「どーぞ、お姫サマ」
「あっ……ありがとうございます」
「プッ、なんで敬語なんスか」
差し出された手を取って車外に出ると、まるでサウナのような熱気が全身を打つ。
顔からつま先までなんだか熱いのは、夏だからだ。
火照る頬に手のひらを当てながら、歩き出した。
「りょ、涼太……大丈夫、なの?」
指を絡ませながら繋がれた手は、駐車場を出てもそのまま。
恐らくネズミーランドの入場門であろう建物が前方に見えてきた。
今日は平日なのに、その混雑ぶりに一瞬足を止めてしまった。
「何がっスか?」
「あの、手、繋いじゃって……」
「腕組みたいなら大歓迎っスよ」
「そ、そうじゃなくて!」
平日でもこんなに人が多いなんて思わなかった。
黄瀬涼太が女と手を繋いで居たなんて、写真でも撮られたらどうしよう。
「オレはなんも困ることなんかないっスけど」
涼太はさらっとそう言い放って、繋いだ手に力が込められた。