第82章 夢幻泡影
「みわはなんつーか……少しずつ威力を増してきたっスね……」
「うん? なんの?」
「いや、こっちの話……」
まだまだ夜明けにはほど遠い時間、休む事なく光り続ける信号の下をくぐり抜けて、車はネズミーランドへと向かっていく。
ワクワクもドキドキも数値的には全く変動がなくて、興奮状態……のはずなんだけれど、次第に瞼が重くなってくるのを感じる。
そう言えばいつも、いってしまうと無性に眠くなってしまうのを思い出した。
身体がほわわんと熱を持って、段々と思考能力が低下していくのを感じる。
あ、だめ、これ。寝ちゃう。
頭がゆらゆら揺れてしまっているのを自覚してはいるんだけど、覚醒出来ない。
コーヒー、買っておけば良かった。
そうだ、どこかお店で眠気覚ましの栄養ドリンクみたいな、ドリンク、みたいな、みたい、な……
はっ、今目を閉じてた!
何考えてたんだっけ、そうだ、眠気を、涼太にお店に寄って、お店に、お店……
「りょうた……」
要望をきちんと口にしたつもりが、それが夢だったのか現実だったのか分からないまま、意識は操縦不能になってしまった。
視界がゆっくりと開けていくと、無数の車が目に入ってきた。
そのどれもが無灯火で、ようやく駐車場なんだという事を把握する。
駐車場……車……ネズミーランド……様々なピースが集まり始めて来た。
そして、また寝てしまったんだという事実にも気が付いた。
日頃から睡眠不足なんだという事は、よく分かってるつもり。
でも、寝なきゃと思うほど眠れなくて……そのうちに、何かしていないと時間の無駄のような気がしてしまって、何かをしているうちに目が更に冴えてしまって……の悪循環だ。
それがいつも、涼太と会うとボロが出てしまって、寝てしまうっていう事態を招いているのは分かっているのに……。
ちらり、右側を見ると、スマートフォンの画面とにらめっこをしている涼太がいた。
いつもの、涼太がいた。
いつもの。
これが、こんなにも幸せで。