第82章 夢幻泡影
「神崎さん!」
「あっ、おつかれさまです」
大学の門の前で声を掛けて来たのは、同じゼミの仲間だ。
微笑みながら大きく手を振ってくれたから、すぐに分かった。
頭の上に作られた大きなお団子と、口の端から覗く八重歯は彼女のトレードマーク。
飾らない性格が男女問わず好かれる素敵な子。
「再来週の金曜なんだけど、空いてる? 今度こそ教授も来るからってまた飲み会計画してるんだけど」
……この間、いらっしゃらなかった教授。
今度こそ、顔出した方がいいよね……。
再来週の金曜って、何か予定入っていたっけ。
「ちょっと、待ってね」
ゴソゴソと手帳をカバンから取り出し、紐を挟んでいるページを開くと、該当の日にちのマスは上半分だけ記入されていて……午前中にバイトの予定が入っているだけだった。
「あ、飲み会って、夕方からだよね。それなら大丈夫」
「オッケー、じゃあ神崎さんも出席にしとくねー」
「うん、お願いします。あ、そうだ……ちょっと、聞いてもいい?」
「うん?」
「あの……ネズミーランドって行ったこと、ある?」
気の良い彼女だから、つい聞いてしまった。
迷惑だっただろうか?
「あるよー、年パスあるし」
「ねんぱす?」
「あー、年間パスポートの事。それ買っておけば1年間どんだけでも入り放題だから」
「す、すごい……」
つまり、それだけの回数行くという事だ。
何回行っても飽きない、ううん、何回でも行きたくなる場所って事だ。
「え、まさか神崎さん、行ったことないの? 関東在住で?」
「あ、うん、今度行こうかなって話が出てて、行く前に何か下調べが必要かなって」
「へえ、そうなんだ! 楽しいよ、知らなくても十分。それでも準備するっていうなら、気に入ったキャラでも見つけておいたらどう? あとは彼氏に任せちゃいなって」
「あ……そうして、みようかな……ありがとう」
あきと同じ事言われちゃった……。