第28章 デート
「みわっち、夕飯はどうする? 明日も早くから練習だし、もう帰るっスか?」
まだ、一緒にいたい。
「……まだ、時間は大丈夫だよ」
……帰りたくないって、言えばいいのに。
可愛くない言い方をしてしまう。
「じゃあ、軽くご飯食べて、赤レンガ倉庫の方まで行こっか」
夕食はスペインのバルのようなお店に入って、小皿料理をいくつか頼んだ。
お酒は飲めないけど、どの料理も凄く美味しかった。
「美味しかったね!」
みなとみらいの夜景を横目に、赤レンガ倉庫に向かう。
既に帰ろうとしている人が多く、駅に向かう人の波とは逆行して歩く。
「夜景、キレー……」
「オレ、横浜の夜景って好きなんスよね」
赤レンガ倉庫に到着すると、ライトアップされてぼんやり浮かび上がる倉庫と暗い海が相まって、更に幻想的な景色が広がっていた。
先ほどまで見えていた夜景は背にしている状態になるが、海を眺めに、端の方まで歩いていく。
夜の海は暗くて少し不安になるけど、ちゃんと手すりがあるから大丈夫。
手すりの部分に両肘を乗せて、のんびりと海を眺めていた。
ふいに、潮の香りに混じって黄瀬くんの香りが降ってくる。
黄瀬くんが私の後ろに立って、後ろから優しく抱きしめてくれた。
手すら繋がなかったのに。
今日1日とのギャップに戸惑ってしまう。
「……あれ? シャンプー変えたっスか?」
黄瀬くんは余裕ありげに、髪の香りを嗅いでそんな事を聞いてくるし。
……シャンプーの香りって気づくもの?
「……あの、あきからちょっとだけ貰ったの。……変なニオイする?」
好きな香りだし、髪はさらさらするし気に入っていたのだけれど。
「んーん……いー香りっス」
久々の黄瀬くんの身体と優しい声にドキドキしすぎて。
耳に息がかかる近さで話しかけられるから、勝手に足が震える。
「みわっち、映画、泣いちゃった?」
「……感動したんだもん」
「かーわい。本当は映画館で言おうと思ってたんスけどね」
その低く響く声に、全身に鳥肌がたつのを感じていた。ゾクゾクする。
「はは……みわっち、大丈夫?」
全然大丈夫じゃない。この声色、分かってて聞いてるんだ。
耳元で囁かれるたび全身から力が抜けて、今にも座り込んでしまいそうな状態。