第28章 デート
映画の内容は、簡単に言うと身分違いの恋。
でも、お互いどうしようもなく惹かれ合ってしまい、身体の関係を持ってしまう。
描写がとにかく切なくて切なくて、泣きそうになってしまうシーンばかりだ。
右手でこっそり持っていたタオルを目に当てる。
左に座っている黄瀬くんには見えないはず。
『……愛してる……』
想いが伝わった感動的なラストシーン。
じわりと滲み出る涙を拭った時、肘掛けに掛けている左手の上にそっと手が重なってきて、思わずぴくりと反応してしまった。
冷房の効いた館内にも関わらず、温かい手。
久しぶりの黄瀬くんの体温に、意識が全て手に集中してしまう。
『愛しているよ、お前だけを……』
感動のラストなのに、心臓がうるさい。
映像が全く入ってこない。
そっと私の指の間に長い指が滑り込むと、周りの音なんか何も聞こえなくなってしまった。
ぎゅっと握ってくれている。
力強くて、大きな手。
どうしよう。これ、どうしたらいいんだろう。
気付くと画面はエンドロールになっていた。
手はまだ重なったまま。
恥ずかしくて黄瀬くんを見れない。
黄瀬くんは、こちらを見ているの?
幕が閉じ、照明がつくと次々と席を立つ客。
私は手を動かすことも黄瀬くんの方を見ることも出来ないまま、固まっていた。
「みわっち……行こうか」
すっと手が離れてしまう。
ヤバい、また顔赤くなってるかな。
冷房効いてたから大丈夫だよね。
今度は手を繋いで歩いてくれるのかと思ったけど、外ではやっぱり繋がなくて。
モデル事務所からなんか言われたとか……やっぱり私と繋ぐのは恥ずかしくなったとか……。
ひとり、悶々としてしまう。
「映画、面白かったっスね」
「うん、感動しちゃった」
「お昼、スタイリストさんに教えて貰ったトコ行こうと思うんスけど」
もう全てコースはお任せしてしまっている私。
自然食レストランに入って、新鮮で美味しいランチを食べた。
日中は、お喋りをしながら街歩きをしたりお茶したり。
なんてことないことを話して笑いあって、という時間を楽しんでいた。
朝、黄瀬くんを待っている時とは真逆で、一緒にいると時間はあっという間。
真上で輝いていた太陽はいつの間にか傾き、秋の訪れを感じさせる夕陽が黄瀬くんの髪を照らしていた。