第82章 夢幻泡影
時計の針の角度を三度見して、寝惚けてない事を確認すると、枕元のスマートフォンを掴んで飛び上がるようにして布団を出た。
こんなに寝てしまうなんて、気が緩んでる証拠だ。
アラームかけ忘れてた、という訳でもなさそう。
きちんと止めて寝ていたんだろう。
何してるんだろう、本当に。
メッセージアプリのアイコンがある画面へうつると、案の定そこには数字が。
その数は、彼が何度も連絡をくれていたという証拠。
漏れ出そうになるため息を抑え込んで、トーク画面を開いた。
涼太がいつも使ってる、可愛らしい柴犬のスタンプが、オハヨー!と笑いかけてくれてる。
"おはよー! もう起きてる?"
送信時間が、いつも私が起きている時間。
そう、いつもなら起きているのに。
画面を下にスクロールすると、次は壁から柴犬がぴょこんと顔を出しているスタンプ。
"おつかれサマ!"
とだけ綴られていた。
受信時間は何時間も前だ。
「ごめんなさい、涼太……」
急いで、今起きてしまった旨を返信。
どんな謝りの言葉も足りないよ。
すぐに既読マークがついて、"今、電話ヘーキ?"の文字が。
「大丈夫、です……」
いつまでたっても速くならないフリック操作に少し苛ついてしまう。
自分のせいなのに、イライラするなんて益々自分勝手だ。
そんな私の顔を真横で見てたかのようなタイミングで震え出すスマートフォン。
「もしもし、ごめんね、こんな時間まで寝ちゃって」
『お寝坊サンなみわは珍しいっスね。大阪、長かったから疲れたんじゃないスか』
「そうなのかなぁ……自分でも驚くくらい長く寝ちゃったの。今日、会えたらって言ってたのに本当にごめんなさい。涼太、今何してるの?」
『今日は暑いからゴロゴロしてたんスわ。朝ちょっと日が昇る前に走って来たんスけど、もー暑くて』
「そうだよね。ちゃんと水分塩分取らないと危ないから」
……まだ、涼太に出会う前。
朝焼けに照らされた彼の姿を、ふと思い出した。