第82章 夢幻泡影
「ねむい……」
自室へ足を踏み入れてすぐに、ぽつりと漏れたつぶやき。
昨日は日が変わるまで選手の相談に乗っていたからか、何故かすごく眠い。
帰りの新幹線では、席についてからの記憶が全くないくらいだ。
なんでこんなに眠いんだろう。
帰れると思って、気が緩んだんだろうか。
思考すらもだんだんとぼやけてきて、ゆっくりと視界が狭くなっていく。
部屋が暑い……いつもは扇風機だけで済ませていたけれど、熱中症が怖いから最近はきちんとエアコンを使うようにしてる。
冷えすぎない程度の温度設定にして、リモコンをデスクの上へ置いた。
それにしても、眠い……。
せめて、お布団を敷かなきゃ。
そう思ってはいるんだけれど、身体が動かない。
あきは今夜、約束があるって言ってたから夕飯はひとりだ、簡単に済ませてしまおう。
汗を流して、キッチンに立たなきゃ。
そう、涼太からもきっと連絡がある。
必死で頭の中でタスクを並べるのに、足は辛うじて動く程度だ。
やっぱりお風呂もご飯も、少し眠ってからにしよう。
力を振り絞って、クロゼットにしまってあったお布団を引きずり出す。
きちんと敷いて……と思ったところで、記憶は途切れた。
嗅ぎ慣れたお布団のにおい。
ちょっと薄くて硬いけれど、使い慣れた感触。
もぞ、と手を動かすと布団の上に光の筋が見える。
それがカーテンから差し込んだ光と気が付くのに、それほど長い時間はかからなかった。
「うそ」
しまった、もう朝?
ちょっとだけ眠るつもりだったのに!
慌ててデスクの上に置いてあるデジタル時計を見て言葉を失った。
13時?
待って、昨日帰ってきたのは21時になるかならないかという時間だったはず。
お風呂にも入らず何も口にせず、こんなにも寝てしまうなんて。
今日は、涼太と会えるかもしれない日だったのに!