第82章 夢幻泡影
あれから、涼太とも閑田選手ともあの件については話をしていない。
どちらも、そんな事まるでなかったような、そんな感じだ。
私も引き続き、あえて触れる事はしないようにした。
当事者のふたりがその態度なのに、私が掘り返すのは違う気がして。
それからはいつも通り、インカレに向けてひたすら練習の日々……滞在期間が長いと思っていたけれど、もう明日には東京へ帰るんだ。
本当に、あっという間……。
チームも段々と仕上がってきていて、ますます強くなってる。
1試合、4クォーターを走り切るには確かな体力が必要だ。
更にトーナメント序盤は1日に2試合する事も珍しくない。
終盤戦になればなるほど消耗し、判断が鈍る。
それを少しでも緩和出来るのは継続した鍛錬のみだ。
気力でカバー出来るのには限界があるから、私は選手の底を少しでもあげるお手伝いをする。
でも、それと試合の結果は……全く別物。
コートには魔物が潜む。
鍛えたから、練習を積んだから勝てると断言できる世界じゃないんだ。
ただのサポートメンバーである私だけど、大阪に行ってる間には、お役に立てるように精一杯やらなきゃ。
チームメンバーの大多数とはメッセージアプリのIDを交換しているから、時々相談や連絡が来る。
遅い時間まで相談に乗る事も少なくなくて、なかなか休む時間が取れなくて……でも暑い夏を乗り切るにはしっかり栄養と休養をとること、と皆にアドバイスしてる立場だから、今まで以上に気をつける事にしている。
明日帰ってからは何も予定を入れずにゆっくり寝て、翌日はオフ。
もしかしたら、涼太の都合が合えば会えるかも……。
また連絡するって言ってくれていたから、明日の夜くらいまでには連絡を貰えるかな?
気付けば浮き足立っている自分が居て、気を引き締めるためにぺちりと頬を叩いた。