第81章 正真
電話での沈黙、って色んな事を想像してしまう。
それも、普段滅多にない、涼太の。
嫌悪? 驚愕? 今、どんな顔をしてるの?
聞き方が悪かったかと後悔の念が過ぎったけれど、でも遠回しに探るような事はしたくなくて。
『会ったっスよ』
私も言葉を発せぬままでいると、少しの沈黙の後、あっさりと涼太は言った。
やっぱり、そうだったんだ。
『つか、会いに行ったんスけど』
彼がそう続けたのを聞いて、その事を疑問にすら思っていなかった自分に気がついた。
そうだよね、偶然ばったり会った、なんて出来過ぎてるもの。
当然、会いに行ったってことになるんだろうけれど……
「そう、だったんだ……どうやって? あの、連絡先とか」
『マクセサンに聞いて』
「え……」
マクセ、さん?
マクセさんは、涼太が閑田さんに会った事を知っていた?
でも今日、閑田さんの顔を見ても、何にも言ってなかった。少し驚いた顔をして、ちゃんと冷やしたのかと聞いていただけだ。
『てか、マクセサンに聞いて電話してきたのかと思ったんスけど、違うんスね』
「う、うん……」
『アイツ、なんか言ってたんスか』
「ううん、そうじゃないんだけど……なんでだろう、ごめんなさい、なんとなくそうかもと思っちゃって……」
そう言えば、なんでそう思ったんだろう。
なんとなく、直感でとしか言えない。
言えないんだけれど、それってどれだけ失礼な事か、考えてもみなかった。
『なんとなく、か……それで当たっちゃうんだから、流石みわって感じっスわ』
それからまた、僅かな沈黙。
私……何を聞こうとしていたんだろう。
何故、殴ったのかって?
普段温厚で、でも他人とは一定の距離を保っている涼太が、何故わざわざ殴りに行くなんて事をしたのか。
……馬鹿だ、私。
理由なんて、ひとつしかないじゃないか。