第81章 正真
ほんの少し舌に残る生姜のぴりりとした辛さと、身体の芯からぽかぽか温まる感じ。
一旦、電話を切って良かった。食事をして、気持ちが落ち着いてきた。
食べることって、やっぱり大切なんだな。
口から入るものが身体の中へと入っていく、とっても単純だけれど、とっても大事なこと。
あの焦った気持ちのままお話してしまったら、感情に任せて、不要な事までぶつけてしまっていたかも。
やっぱり、気持ちに余裕が無い時は一歩踏みとどまらないとだめだ。
涼太は何時頃まで練習をしているんだろう。
寝る前に、少しだけでもお話出来るかな。
食事を済ませて、すぐにお店を出た。
カウンターがメインのレイアウトだったから、あんまり長居するのは申し訳なくて。
今日はコンビニではなく、駅前のスーパーで2リットルのペットボトルと塩分補給タブレット、パンとサラダ、ヨーグルトを購入した。
蒸し暑い空気が、全身に不快感を擦り付けてくるみたいだ。
夜になっても熱中症には気をつけないと。
涼太も、ちゃんと水分塩分とってるかな……。
ホテルの部屋に入ると、ひとりでに小さなため息が漏れた。
荷物を机に置いて、ホテルの室内を見渡す。
当たり前なんだけれど、つい、他にひとがいないかを確認してしまう。
お風呂は、電話が終わってからにしようかな。
そう思って、ベッドの際に腰を下ろしたところで、スマートフォンが着信を告げた。
「もしもし……おつかれさま」
『お疲れ、もうホテル? 今だいじょーぶ?』
「うん、ご飯を食べて今戻ってきたところだよ」
『風呂入っちゃうっスか?』
「あっ……ううん、寝る前に入るから大丈夫」
『そっか。オレはシャワー済ませて来たし。何か用事があったんスか? まーなくても問題ないっスけど』
優しい優しい、声だ。
このひとがどれだけ優しいひとなのか、私はよく知っているじゃないか。
「涼太……今日、閑田選手に、会った、よね?」