第28章 デート
「……おはよう!」
スマートフォンを見ていた黄瀬くんの横から顔を出す。
「わっみわっち、おはよう! あれっ、もう10時になっちゃったっけ」
慌てた顔で、時計を確認している。
今までスマートフォンを見てた筈じゃ……?
「あの、早く準備終わったから」
「あ、オレも今来たとこなんスけどね。
ちょっと早く出ちゃって。なんか今日雰囲気全然違うっスね」
上から下まで見られている。
思えば、モデルやってる人に、この中途半端なオシャレはどうなんだろう。
黄瀬くんはシンプルなポロシャツにパンツスタイルなのに、ちゃんと似合うスタイルの物で滅茶苦茶カッコいい。
背伸びなんかしなきゃよかったと、急に後悔の念が押し寄せてきた。
「あ、慣れない事しちゃって……変、かな」
「ううん、すげー可愛いっスよ!」
あ、私の好きな笑顔だ。
とりあえずガッカリモードではなかったみたい。
良かった。
「午前中、映画観てもいい?」
「うん!」
電車に乗るときは、私がドアの角に立って黄瀬くんが守るようにして立ってくれている。
街では、歩くスピードを合わせてくれている。
でも、デートなのに手……繋がない。
なんでだろう。
普段だって繋いでたのに。
「みわっち?」
「あ、ごめん、なに?」
「何飲む? ポップコーンいる?」
「ううん、飲み物だけでいいかな。アイスカフェラテ、がいいかも」
「じゃ、買ってくるからここで待ってて!」
街でも、この映画館でも、すれ違う人が皆振り返っていく。
伊達眼鏡をしてても、隠せやしない。
「あの人チョーかっこよくない!?」
「え、もしかしてアレ彼女じゃないよね?」
「うそ、アレがイケるなら私とか余裕じゃない?」
……聞こえてますよ、お嬢さん方。
「みわっち、お待たせ!」
「ありがとう。ごめんね」
こんな私といるのが、恥ずかしくなってしまったんだろうか。
思えば、考え事をしていてタイトルすら確認していなかった。
看板を見ると、なんだか記憶がある映画だ。
……あ……この間、テレビを一緒に見ている時にCMでやってた恋愛映画。
私、観たいって言ったんだよね。
覚えててくれたんだ、あんな一瞬のこと……。
考え事ばっかりしてて楽しめないなんて勿体無い。
今日1日、精一杯楽しもう!