第81章 正真
「ありがとうございました。良い一日をお過ごしください」
「ありがとうございます。とっても美味しかったです。ご馳走様でした」
すごく雰囲気も良くて、落ち着くお店だった。
ホテルからも近いし、また泊まりに来た時には寄ってみよう。
そんな事を考えながら体育館に向かって歩いていると、前に見知った背中が。
……閑田選手だ。
昨日の一件……なんて話しかけたらいいかな。
ううん、もうお互い大人なんだもの、過ぎた事として話題には上げない方がいいかもしれない。
公私混同するのは避けたい。
声もかけられず、微妙な距離を保ったままでいると、前から走って来た選手が閑田選手と目を合わせた瞬間、驚いて立ち止まった。
「閑田、どしたんその顔!」
え?
「いやー、ちょっと」
「なに、誰かに殴られたん? なんか事件じゃないやろな?」
事件、殴られた、その単語に嫌な予感がして、私も閑田選手のもとへと駆け付けた。
「……!」
閑田選手は、頬に大きなガーゼを当てていた。
隠れていない口元が赤黒く変色しているのが分かる。
「閑田さん、見せてください」
転んだ、とかいう怪我じゃなさそう。
昨日はなんともなかった。一体どうしたというの。
「いや、大丈夫だから」
「閑田さん……」
「変な奴に絡まれたん違うか」
「違うって。……オヤジと、ちょっとケンカして」
何故か言い淀む閑田選手に、説明し難い違和感を感じる。
「親父さんと? お前、実家関東やろ」
「……こっちに、来てたんだよ」
閑田選手は、私と目を合わせない。
そのまま、足早に去ってしまった。
「なんやアイツ」
お父様と、喧嘩?
本当、に?
今朝になって突然始発の新幹線で帰ると行ってしまった……でも、結局始発には乗れなくて。
もしかして……もしかしたら……