第81章 正真
時刻は、10時を少し過ぎた頃。
店内は、壁や床、テーブルなどのインテリアが濃い茶色で統一されているせいか、少し冷たいような、でも洗練された雰囲気がある。
初老の男性店員さんに促されて、店内奥の窓際の席に座った。
私の他には、テーブルの二人席に座ったスーツ姿の女性と、カウンターに座ったTシャツを着た男性だけだ。
たまごサンドとコーヒーのモーニングセットを注文し、手帳とノートを机に出して、スマートフォンの電源を入れた。
涼太から、メッセージが送られてきている。
“無事に着いたっスよ! ごめんね、突然押しかけてすぐ帰っちゃって”
良かった、何事もなく帰れたみたい。
こちらこそ、心配かけてごめんね、気を付けてねとお返事した。
ああ、マッサージもしてあげられなかった。
長時間新幹線に乗って、筋肉が硬くなってしまってないかな。
“マクセサンが、みわの仕事ぶりがスゴイって、評判いいって。また夜ゆっくり話すから。練習いってきまーす”
「へ」
思いもしない内容に、うっかり変な声が出てしまった。
スマートフォンに影が落ちた事に気が付いて、顔を上げると先程の店員さんがお料理を持ってきてくれていた。
行ってらっしゃいのお返事をして、そっとスマートフォンの画面をオフにする。
「あ、すみません。ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
青い模様の白磁器の上に乗ったたまごサンド。
あれ……なんか、違う。
一瞬考えて、すぐにその違いに気が付いた。
【たまご】が、卵焼きなんだ。厚焼き卵みたいな。
食べ慣れたたまごサンドと言えば、ゆで卵を細かく刻んで、マヨネーズと和えて……といったものなんだけど、これは厚焼き卵がパンにサンドされている。
改めてメニューに目を通すと、【関西風】と書いてある。
知らなかった。関西風のたまごサンドって、こういうのなんだ。
大きく口を開けてひとくち頬張ると、柔らかくてダシのきいた卵が口の中でふんわり溶けた。
「おいしい」
考えた事もなかった。
きっと、自分が思っている【いつも】というのは、他のひとから見たら【いつも】じゃないんだな、って改めて思った。