第81章 正真
手のひらサイズの白いメモ帳の下部には、ホテルの名称が書かれている。
どうやら、部屋に備え付けのメモらしい。
彼らしい元気な字で、言葉が綴られていた。
"急にごめん、始発の新幹線で帰ることにした!
また連絡して
次会えるの楽しみにしてるから
フロントに鍵だけ返してくれると嬉しい!
涼太"
文字の勢いといい、文章の構成といい、かなり急いで書いたメッセージのようだ。
きっと涼太も疲れていて、ギリギリまで眠ってしまったんだろう。
時間がなかったら、後でスマートフォンで連絡くれても良かったのに……。
このマメさは、彼らしい。
紙の端をそっと押さえてゆっくりとメモを切り離した。
自分の部屋に戻ってシャワーを浴びて、荷物を取って、朝食を……やらなきゃいけないことはいっぱいあるけれど、まずはメッセージアプリで、涼太にひとことを送信する。
画面を消そうとした途端、メッセージの横に既読マークがついて、瞬時に画面が黒塗りに切り替わった。
一瞬何が起こったのか分からなかったけれど、着信中の文字に、慌てて応答ボタンをタップする。
『もしもしみわ、今ヘーキ?』
「うん、大丈夫。おはよう、ごめんね、お見送りしようと思ってたのに」
今日は朝早くからの練習じゃないから、駅ないし空港までお見送り出来ると思っていたのに。
呑気に寝てしまった自分、ばか……。
『いーんスよ、気持ち良さそうに寝てるから起こしたくなかったんスわ。よく眠れた?』
「うん、今までぐっすり寝ちゃってた」
良かった、と言ってくれる声が優しくて。
でも、そんなふわふわの声に乗って微かに聞こえる音は……信号の音?
歩行者用信号が青になった時の、ピヨピヨという音に聞こえる。
始発で新幹線に乗ったなら、今この時間は新幹線の車内のはず、だけれど……?
「涼太……今、新幹線?」
『……あー、ちょっと遅れちゃったんスよ。これから乗るトコ。また帰ったら連絡するっスわ』
「そうだったんだ。気をつけてね」
今、ちょっとだけ間があった……どうしたの、かな?
『みわ』
「うん?」
『愛してるよ』
「ほっ!?」
涼太はあははと笑って、そのまま通話を終えてしまった。