第81章 正真
「涼太……」
腕の中から聞こえた声は、微かに震えてた。
力を緩めてまた目を合わせると、今度はみわから唇を求めてきてくれて、それがすげー嬉しくて。
こうやって、触れてるだけで満足だ。
唇と言葉を交わして、気持ちを繋げられるのが、何よりも幸せ。
ヤりたくないわけじゃない……っつか、そりゃ出来るもんなら……だけど、万が一でもリスクのあるようなコトは絶対にしたくない。
昔は……血まみれとか勘弁してって思ってた時期もあるけど……今はそんなの、どうでも良くて。
ただただ、大切にしたいだけなんだ。
みわがひとりで辛い思いをしてたのが、少しでも和らいでくれたんなら、良かった。
細い肩を震わせてトイレで吐く姿、その後に眉を顰めて自己嫌悪に陥っている姿が、ずっと目に焼き付いてる。
傷だらけの身体で、血を流しながらもそれでも真っ直ぐ前に向かっていく彼女が、眩しくて。
目を離したら消えてなくなっちゃうんじゃないかって、時々無性に怖くなる。
こんなに他人を大事に想ったコトはないし、もちろんそれを失ったコトもない。
手に入れているはずなのに、手に入れられていないような焦りというか、ざわざわした気持ちが胸焼けみたいになって身体の中心で疼く。
この体内のイライラを放出させたら、きっと目の前の彼女を傷つけてしまうだろう。
自分のものになんかならないって、分かってる。
ほんのひとときだけ、この腕の中にいる間だけの独占。
いっつも、ふたつの気持ちの間で揺れてる。
全部捨てて、オレと一緒に居て欲しい思いと、彼女らしく生きて欲しいという願い。
どっちが正しいかなんて、分からない。
自分が本当に望むのがどちらかというのすら、はっきりしない。
今、頭に浮かんでいる気持ちだけを握り締めて、夢中で唇を吸い合った。