第81章 正真
「閑田ってヤツとのそれがあって、嫌なコト思い出しちゃったんスね」
……ここまで私の事を知っている涼太だ、今までの材料でこの解を導き出すのは容易な事なのかもしれない。
違うって嘘をつくのは心配をしてくれた彼に対してやっていい事じゃないし、だからと言ってうまく誤魔化せそうな気がしなくて……。
何より、感情のコントロールが利かなくなってきた。
涼太といると、こころのタガが外れてしまう。
「言ってたじゃないスか、忘れたい事はハッキリ覚えてんのに、思い出したい事はちっとも思い出せないって」
「うん……そんな事言うつもり、なかったんだけど……」
「いいんスよ、オレには全部言ってって、普段から言ってんでしょ」
「う、でも……」
楽しいお話だけしたいのに。
嫌な気持ちになんて、させたくない。
もう、あの事件から何年が経ったと思うの。
いつまで引きずるんだって、嫌気がさしてしまったらどうしよう。
「本当に、ごめんなさい……」
私じゃなければ。
私じゃなければ、もっと楽しい話ばっかりのはず。
涼太もいつも笑って過ごせるはずなのに。
こんな自分が嫌だ……胸がギュウッと握りつぶされそうな痛み。
喉に何かが詰まってしまったかのような息苦しさ。
「みわ、言っとくっスけど」
おっきな手が、私の両頬を包んだ。
いつもの、あったかい手だ。
「オレの知らないトコで泣かれる方が何万倍もイヤっスわ」
まっすぐ。
まっすぐな瞳。
今度こそ、彼の眼に映る自分をはっきりと認識出来た。
「……うん……」
今度は喉に違う何かが詰まったようになって、うまく返事が出来なかった。
涼太には、私はどんな風に見えているのかな。
どんな世界が見えているのかな。
このひとの見る世界を、一緒に見たい。
「涼太……大好き……」
切れ長の瞳は音もなく微笑んで、ゆっくりと呼吸が重なった。