第81章 正真
以前、涼太と話した事がある。
キスって、すごいよねって。
呼吸をする所を、言葉を発する所を塞ぐっていう……信頼していないと、出来ない事だよねって。
分からないけど、一般的にはもっと気軽なものなのかもしれないけれど、涼太との口付けはそれをすごく実感する。
塞いでる、じゃない……なんていうか、うまく言えないけど、分け合っている、っていうか、そんな感じ……ああ、頭の芯が蕩けていく……。
「……っと、やべ、いい加減にしないと止まんなくなりそうっスわ」
「……?」
唇が離れ、手の甲を口に当てながら言った涼太の言葉の意味が、ぼんやりとした頭ではよく分からなくて。
次の言葉で、ようやく大事な事に気が付いた。
「お腹、しんどくないんスか」
大きな手にお腹を撫でられて、ようやく気がついた。
そうだ私今、生理中だった……。
いつも生理痛が酷いのは、初日。
今日は気分があまり良くないだけだ。
「あ、痛いのは……大丈夫。貧血も、いつもの事だし」
「あんま無理しちゃダメっスよ」
「うん、ありがとう……」
顔が熱い。
体液の温度が上がってしまったかの如く、身体中が火照ったように熱い。
涼太は私の事を心配してくれているのに、当の本人は今の今まで全く気にも留めないでいたなんて。
「やっぱ、来て正解だったっスね。昨日の電話おかしかったから」
その台詞で、涼太は仕事で来たんじゃないって、はっきりと分かった。
電話であんな風になるから、心配して会いに来てくれたんだ。
どうしよう、泣いてしまいそうだ。
「……ごめん、なさい。ちょっと、なんか時期的にちょっと、あんまり体調が良くなかったみたいで」
こんないい加減な説明しか出来ないなんて、遠路はるばる会いに来てくれた涼太に申し訳ない。