第81章 正真
左の腰のあたりを滑る肌の感覚に、ひとりでに声が漏れる。
温度の高い手は背中に回り、ごく小さな金属が擦れる音の後に、両胸が解放された。
「あの、触られた、って、服の上から……軽くだから、あの」
怒ってる?
他の男に触らせて……って、嫌な気持ちになった?
どうしよう。
「……ごめんなさい!」
散々考えたけれどもう、とにかくこれしか言えなくて。
大きな声で投げかけたら、また綺麗な瞳に覗き込まれて、息を呑んだ。
「なんで謝るんスか」
「……あ、っ」
少し硬い声に合わせて、大きな手が乳房を包み込む。
「みわはなんにも悪いことなんてしてないっスよね?」
「……でも、ふたりきりになったのは、私……だから」
「みわ」
「っ、はい」
ピタリと止まる手の動き。
少し非難めいた色のある声……。
「違うでしょ、そりゃ、ホテルでふたりきりっつーのは……ちょっと迂闊だったかもしんないっスけど、悪いのはそういうコトするヤツなんスよ。みわが謝る事なんて何もない」
「そんな……だって、涼太にも、嫌な思いさせて」
「何言ってんスか、嫌な思いしたのはみわでしょ」
触れているだけだった手が、今初めて意思を持ったかのように、動き出す。
ゆっくり、まるで壊れ物を扱うみたいに。
「……ん……」
やわやわと揉まれているだけなのに、腰のあたりが疼いてくる。
「忘れる、なんてのは無理だと思うっスから……今だけでも他のコトで頭いっぱいになればいいんスよ」
「あ……っ!」
指で胸の頂点をつままれて、腰が浮く感覚。
向かい合って座ったまま、シャツはたくしあげられて緩んだ下着をめくられて……なだらかな双丘が涼太の前に晒された。
どうしよう、恥ずかしい。
何度彼と肌を合わせても慣れない……この先もずっと慣れる気がしない、この感じ。
ゆっくりと小さな顔が近付いて来て……熱い吐息が肌にかかった。