第81章 正真
そっと触れるようなくちづけに、優しく肩を掴む手の温かさに、勝手に目頭が熱くなる。
これが塊になって零れ落ちてしまう前に止めなきゃ、そう自分に言い聞かせて律しようとした途端、触れていた唇が離れた。
「眠れてる?」
小さな小さな声で投げかけられたその質問は、答えなくてももう回答が分かっているみたいだった。
「嫌な夢、見たんじゃないスか」
あの目が覚めた時の絶望感、こみ上げてくる吐き気、吐き出した後の後悔とやるせなさ……押し殺していた負の感情が、持ち主の意図を無視して涙に溶けて出て行ってしまう。
止めなきゃ。
きちんとそう思っている筈なのに、どうしてこんなにもこころが揺れる。
「……だ……いじょう、ぶ……」
やっとの思いで絞り出した声は、無言の方がまだましだったと思わせるほどにひどく濡れてしまっていて。
「ごめんなさい……大丈夫、だから。もう、大丈夫だから。なんともなかったの」
涼太に訴えているのか、はたまた自分に言い聞かせてるのか分からないまま、何回言えば気が済むんだって言われちゃいそうなくらい、繰り返した。
何回目かの"大丈夫"で、そのおっきな胸の中に包まれた。
おっきな手に抱きしめられて……こころがほっ、とした。
本当に、不思議だ。
本当に、不思議なひと。
「触られたりした?」
また、ぎくりと心臓が軋んだ。
それと同時に、意図せず身体が一瞬強張った。
気付かれて、しまったかも。
「……どこ」
……やっぱり。
時すでに遅し、再び覗き込まれて、お手上げだ。
「……胸、を少々」
あああ、少々ってお料理番組じゃないんだから何言ってるの、と自分の中の自分が呆れたように言ってる。
さっきから大パニックだ。
それに、絶対これは言っちゃいけなかった。
「あっ、でも」
音もなくするりと涼太の腕が離れて、次にその熱を感じたのは……腰、だった。
シャツの裾から、躊躇いもなく入ってくる。