第81章 正真
さっきから顔をちゃんと見れなかったけど、真隣に座ってしまったら余計に顔を上げることが出来なくて。
別に、やましい事があるわけじゃない。
何かを隠そうとしてるわけでもないのに、あの瞳を見たら、出しちゃいけない感情まで引きずり出されてしまう気がして……。
「みわ」
「……うん」
だめだ、そんな事言ってちゃだめだ。
後ろめたい事なんか、なんにもないもの。
ちゃんと、涼太にお話しなきゃ。
意を決して顔を上げようとした途端、視界に肌色が入り込んで来て、驚きすぎて身体が石のように固まってしまった。
続いて、私の世界を染めたのは琥珀色。
ほら、やっぱり、この瞳に吸い込まれる。
思考とか、全部、なんにもなくなったみたいに、全部。
すり、と下唇に何かが触れた。
あったかい……涼太の、指だ。
こころに呼応する様に、心臓が騒ぎ出す。
「キス、された?」
投げかけられたその疑問に、心電図の波形が異常値に達してるんじゃないかというくらいに跳ね上がる。
「さ、されてない!」
慌ててそう答えたけれど、その慌てぶりがかえって怪しいじゃないかとか、そんな事を考える余裕は微塵も無くて。
「されてないよ、されて」
自分の耳に聞こえた音は、ここまでだった。
続く否定の言葉は、出なかったのか、はたまた涼太に呑まれてしまったのか。
予感、してなかったって言ったら嘘になる。
一応お付き合いをしているという間柄で、これだけの至近距離になったらもしかしたらって、なんか色々考えてたんだけど……でもやっぱり今のこの状態でそれはないんじゃないかなとか、脳内で色んな意見が飛び交っているうちに、触れた唇が温かすぎて、なんかもう言葉通りに全て吹っ飛んでしまった。
「……ん、ぅ……」
鼻にかかったような声が勝手に出てしまう。
肩を掴んだ手の温度が、Tシャツ越しに伝わってくる。