第81章 正真
「みわ」
「……はい」
神妙な、空気だ。
また配慮に欠ける事を言ってしまったかも……。
涼太から発せられる次の言葉を固唾を呑んで見守る。
ゆっくりと唇が開いて……
「昨日泣いてたのはアイツのせい?」
「え、っ」
思ってもみなかった方向からボールが飛んで来て、ぽかんと口を開けてしまった。
「あ、っ、そういうんじゃないの、あれは完全に自分のせいって言うか」
「やっぱり泣いてたんスね」
「……あ……」
その誘導尋問にも気が付く事が出来なくて……やっぱり、あんな無理な言い訳が通用するわけがなかった。
「何されたの」
「あの、本当に、私の自意識過剰だったって言うかね、過剰反応しちゃって」
「みわ」
「……」
こうなったら嘘はつきたくない。
出来るだけ深刻な感じにならないように……
「……ホテルの、部屋で……練習後に試合のDVDを観ようっていう話になって……ちょっと、からかわれて」
「からかわれて?」
「……う、押し、倒されるみたいな、感じになって」
「は?」
「あっでも、そういうんじゃなかったの、本当に、冗談で」
自分でも分かるくらいの早口だ。
涼太の顔が見れない。
どうして、ふたりきりになったのかって思われたかもしれない。
どうして、抵抗しなかったのかって思われたかもしれない。
なんて言えば、許して貰えるだろう。
次に紡がれる言葉を想像するのが怖い。
怒られるだろうか。
ううん、怒られた方がましだ。
だって、あれは私が軽率だった。
あのまま、犯されたっておかしくない状況だった。
犯され……頭の中でその単語を浮かべただけなのに、身体が勝手にブルッと震える。
「涼太……」
「みわ、おいで」
少し、低めの声。
軋むように感じる首を必死で動かし、ぎこちなく頷いて涼太の隣に座った。