第81章 正真
涼太と私は、同じフルーツティーのペットボトルを買った。
かちかちかち、と蓋が鳴って、開け放った瞬間に瑞々しいオレンジが香る。
「さっきのさあ」
「うん」
「カンダってヤツ。アイツにいつも困らされてんの?」
その口調から、この言葉には文字以上の感情が込められているのが窺える。
「困らされてる……とかじゃないんだけど」
「あーゆーコトされんの、初めてじゃないんスか」
やっぱり……見られてたんだ。
誤解、されているとは思わないけれど……。
「そういうのじゃないの。あれは、その、からかわれただけだと思うから」
「みわがフリーだと思ってんじゃないスか」
「あ、ううん、それは前から言ってあるから」
ちゃんとお付き合いしているひとがいるって、出会った当初から言ってる。
茶化されるばかりで、全然本気にしてくれてないみたいだけれど……。
「オレと付き合ってるって?」
「……名前までは出してない、けど」
「どうして?」
「どうして、って……」
改めてどうしてかと聞かれると、上手く説明する言葉が出てこない。
もう当たり前のようにそう思ってきたから……。
「オレとそういう関係なのは恥ずかしくて言えない?」
「そんな、恥ずかしいとかじゃなくて!」
勢いよく顔を上げたら、きらきらの宝石みたいな瞳と目が合った。
彼とはまだ距離があるのに、まるでそこにあるかのような存在感。
「うん、恥ずかしいとかじゃなくて?」
「……どこで、どう、迷惑がかかるか分からない、し」
「誰に? みわに?」
「……涼太、に」
「オレに?」
ああ、瞳の中に吸い込まれていきそう。
こちらに近づいてくるその姿から目を離す事が出来ない。
涼太は、私が座っている椅子のすぐ隣にある大きなベッドに腰を下ろした。
きし、と微かにスプリングが鳴った。