第81章 正真
「……お茶?」
涼太から不思議そうに返された言葉にハッとした。
ここ、自分の家でもなんでもない。
このドアの向こう側にはベッドとテーブルしかない簡素な部屋しかなくて、勿論お茶が入れられるスペースなどあるわけもなく。
備え付けのケトルでティーバッグのお茶を……その前にティーバッグを買って来なきゃ。
……そう、ホテルの前のコンビニで買い物をしてきたわけでもない。
部屋にあるのはお茶のペットボトルくらいだ。
「あ……お茶、と申しますのは」
代替案を、と思ったけれどそもそも私はそんな器用さを持ち合わせていない。
見事に言葉を詰まらせていると、涼太は肩を震わせて笑っていた。
「……それは、誘われてるって解釈で、間違ってないっスよね?」
「う」
そのストレートな言葉に、文字通り卒倒しそうになった。
「まだ時間大丈夫なら、オレの部屋来る? ここより広いと思うし」
「あ、え?」
「シングルに空きがなかったんスよ」
「あ、うん、そうなんだ」
「またエレベーターに乗る事になるけどいいっスか?」
「……うん、だいじょうぶ」
どこまでも私に気を遣ってくれる涼太と、自分の事しか考えられない自分。
再び大きな手に誘導されて、10階へと降り立った。
涼太の気遣いで、エレベーターホールにあった自販機で飲み物とちょっとしたお菓子を購入。
もう結構利用している筈なのに、こんな自販機が置いてあることすら知らなくて。
もっと色んな所に目を向けなきゃだめだ。視野を広く持たなきゃ。
「……広い」
「とはいえやっぱビジネスホテルっスよねえ」
涼太に促されて足を踏み入れた室内には、私の部屋にあるのと同じテレビが乗った長テーブルの他に、窓際にテーブルセットが1式。
そして……大きなベッド。
「テキトーに座って。しんどかったら横になっててもいいっスよ」
「大丈夫だよ、ありがとう」
お言葉に甘えて、窓際の椅子に座った。