第81章 正真
「んー、腹いっぱい。一汗流したい気分っスわ」
涼太はお店から出ると大きく伸びをしてお腹をぽんぽんと叩いた。
「私も、食べ過ぎたかも……」
お料理が美味しすぎて、お喋りが楽しすぎて、ついつい食べ過ぎて飲み過ぎてしまった。
「みわ、結構飲んでたけどだいじょぶ?」
「うん、そんなに酔ってないよ」
強いか弱いかの感覚はよく分からないなあ……頬はなんだか火照ったように感じるけど、よく見るフラフラの酔っ払い、という感じではなさそう。
「はは、みわは強いんスよね」
そう言う涼太も、足取りはしっかりしていた。
お店に来る前に荷物はホテルに置いて来てしまったから、身軽だ。
ホテルに戻ったら、今日の分の資料をまた作らないと……。
「あ……涼太、明日の始発で帰るって……今夜は、どうするの?」
しまった、のんびりお食事をしている場合じゃなかった。
今晩の宿はどうなっているのか、先に確認しておかないと、こんな時間からじゃ見つからないかもしれない。
慌ててそう聞いたけれど、涼太は特に焦った様子もなく笑った。
「ヘイキっスよ、もう取ってあるから」
「あ……そうなんだ、さすがだね」
「さっきみわが部屋に荷物置きに行ってる間にね」
そっか、流石涼太、無駄がない。
気を付けなきゃ。私、浮かれてるのかな……。
ホテルの前で、名残惜しつつもお別れの時間だ。
私はまだ暫く大阪にいるし、涼太も大学だ全日本だと予定が詰まっているだろう。
次に会えるのはいつか分からないけれど……。
でも、元々会えなかったはずのところを、涼太はわざわざ会いに来てくれたんだ。
こんな楽しい時間まで過ごせて……嬉しい。
「あの、送って貰ってごめんね。涼太、泊まる所はここから近いの?」
「うん、オレもここだし」
「へ」
「行こ」
流れるような会話に乗って手を取られ、水のようななめらかな動きにつられてホテルの正面玄関をくぐり抜けた。