第81章 正真
何か、気を悪くしてしまっただろうか。
いつも、涼太がくれるスケジュール一覧をちゃんと覚えているようにしているけれど、この関西行きを把握出来ていなかったのが、気分を害してしまったんだろうか。
そんな事を色々考えたけれど、視界に入ってきた涼太の表情は、そのどれとも違うものだった。
「いいや。オレ、明日の始発で帰るっス」
「へ……?」
始発で?
始発って……何時頃だっけ。
確か、新幹線で来た時は6時台だったはず。
……練習に間に合うんだろうか?
「あの、その時間で練習は大丈夫なの?」
「うん、問題ないっスよ」
「そうなんだ」
あっさりとそう言う彼に、なんだか間の抜けた返答しか出来なくて。
「みわがダイジョブって言うなら、メシでも食いに行こっか」
「あ、うん、大丈夫」
「ホント? なんか用事あったんじゃないスか?」
「ううん、本当に大丈夫。今日はもうこのままホテルに戻るだけだったから」
「あ、もうメシ食べたんスか」
「ううん、何か買っていこうかなって思って……」
しまった、またちゃんと食事を取ってない事を白状してしまっているだろうか。
でもちゃんと、お腹が空いたらコンビニで何か買おうと思ってた。
誰も聞いていないのに、何故かこころの中で必死に弁明する。
「んじゃ、ちょっとみわの時間をもらおかな」
そう言って微笑んだ涼太が、なんだか凄く涼太で。
何を言っているのか自分でも分からないけれど、どこか不安だったこころが、ほんわりと和らぐみたいだ。
「なんかリクエストあるっスか? んー、大阪かぁ」
「あっ、あの、前にチームの皆で行った時に美味しかったお店でも、いいなら」
さっきからずっと立ち話だったから、早く彼の足を休めてあげたい。
以前チームメンバーにすすめられて行ったお店、あそこなら近いしとっても美味しかった。
涼太は少し驚いたように目を丸くして、快諾してくれた。