第81章 正真
涼太がそう答えたのは正直なところ、ちょっと意外で。
存外彼は他人に興味がないタイプだ。
軽くあしらってしまうかと思ったけれど……。
「思わないって? そりゃどういう意識改革だ? 昔からそういう考えだったとは言わせないけど」
さっきから閑田選手は含みのある言い方ばかりで、意図が掴めない。
昔の事が今なぜ関係してくるんだろう。
「別にアンタに説明する義理なんてこれっぽっちもないっスけど」
「……ま、そりゃそうだな」
……あ、やっぱり軽くあしらってしまった。
このふたりの会話、行き先が全く読めなくて終始オロオロしているのは私だけだ。
閑田選手のその質問で、話の矛先がすっかりずれてしまった。
正直、終わりどころが見えない。
「てかさ、なんか凄い選手だっていうからそれなりに期待してたのに、男としては全然ダメ男君なんだな。ぶっ潰す? そういうセリフは、普通オンナがいない所で言わない?」
どうして、どうして閑田選手は神経を逆撫でするような事ばかり言うの?
「黄瀬涼太、さぁ。結構裏では評判悪いぜ? 自覚あんのかもしんないけど」
涼太の、評判が悪い?
誰からの? なんの?
「まあこうして実際会ってみたら本当に大した事ない男みたいだし、安心したわー」
閑田選手は、アッハッハと大声で笑って、涼太を一瞥した。
「ほんっと、ちっせー人間」
その馬鹿にした口調に、どくんどくんと心臓のあたりで騒いでいた血液が、すっと冷えていく。
「……閑田選手」
体温がぐんぐん下がっていく感覚。
頭の中では色々考えているはずなのに、それが言葉と連動しない。
脳内で自動的に生成された言葉が、勝手に口から放たれていく。
その文字列を認識するより先に出ていってしまった言葉に、目の前のふたりは目を丸くしていた。