第81章 正真

みわ、って呼んでくれる時の声とは別人だ。
涼太から飛び出す言葉も、いつもの彼からは想像もつかなくて。

というか、今、今涼太はなんて言った？
だめだよ、付き合ってるのなんて、そんな簡単に言っちゃだめだよ。

そんな事ないって、否定する言葉を紡ぎたくても、涼太の声色の凄味に押されてうまくいかない。

「へえ……みわの恋人だって？　初耳だけど。もしそうだとしたら、そっちのが浮気相手なんじゃん？」

初耳だなんて……嘘だ。
閑田選手には、今まで何度もお付き合いをしているひとの存在は話していたのに。

「閑田、さん、本当にもう、やめて下さい……私、浮気なんてしてません」

ああ、これって交際を肯定してるって事だよね。
もう、今何を優先したらいいのかが全く分からないよ。

「物騒だな、潰すだって？　一見チャラチャラして軽薄イケメンって感じだけど、噂よりも随分気性が荒そうだ」

……噂、よりも？
なんだかその一言に引っかかる。
涼太は有名人だもの、そりゃ噂は沢山聞く……よね？

「俺だって試合が近いからね、揉め事起こすつもりはないよ」

閑田選手は、まるで受け取り手がいないかのように言葉を続ける。
全く説得力のない台詞。
ならどうして、こんなに突っかかるような事を言うの？

「黄瀬涼太、あんたにさ、聞きたい事があんだけど」

「あ？」

涼太は完全に喧嘩腰だ。
本当にお願いだから、もうこれ以上熱を上げさせないで。

「才能もないのに必死にそれを頑張る人間ってどう思う」

……え？
想像していなかった方向からの質問に、涼太も困惑しているのが伝わってくる。
当の閑田選手は、無表情……何を考えているのかは読み取れなくて。

「なあ、どう思うよ。才能もねえのに必死こいてバカじゃねえのって思うか」

「思わねーっスよ」

即答、だ。

「才能あるヤツだってないヤツだって、自分が決めたらそこまでやりゃいいんじゃねースか。他人がどうこう言う事じゃない」

言葉尻こそいつもの涼太が戻ってきた……けれど、語尾の強さは相変わらず。
どうなってしまうの。