第81章 正真
「……気安く? そんなのは俺の勝手だろ。俺がみわに触ろうがなんだろうが」
願いも空しく、閑田選手の挑発はおさまらない。
彼だって、普段こんな風に言ったりする事はないのに。
「お前こそ、みわに馴れ馴れしく出来るような立場なワケ? ただの元チームメイトだろ」
立場、その単語に脳みそが強く反応した。
涼太との関係は、誰かに簡単に話していいものじゃない。
どこから彼に火の粉がふりかかるのか、分からないから。
涼太もそれは分かっているとは思うけれど、この空気だ、もしかしたらポロッと口をついて出てしまうかも。
なんとかしなきゃ。涼太に迷惑がかかるのだけは阻止しなきゃ。
「かん、閑田、さん! もういい加減にしてください!」
勢いあまって叫んだから、ちょっと声が裏返った。
閑田選手は、驚いたように目を見開いて私を凝視している。
ふたりの会話が中断された。今、ここで打ち切らなきゃだ。
「あの、ここまで送って頂いて、ありがとうございました! 今日はこれから黄瀬さんと打ち合わせがあるので、ここで失礼します!」
「へえ、何の打ち合わせするん?」
混乱する頭でひねり出した言い訳を即座に返されて。
でも、怯んでる場合じゃない。ここで話を終わらせるのが私の役目だ。
「……それは……至極プライベートなことなので、ここでお答えするわけにはいきません」
「……ふぅん。んじゃいーや。また明日ね」
意外にも閑田選手は私の不自然すぎる言い訳に突っ込むこともせず、片手を上げた。
良かった、これでひと安心……
「おい待てよ、話はまだ終わってねーだろ」
ナイフのような声が、私の頭上から発された。
涼太……涼太の怒りは、全く治まる気配がない。
「黄瀬さん、待って」
「……話ってなんだよ、まだ何か言いたいことあんの?」
この場を去ろうとした閑田選手は踵を返し、また鋭い視線を涼太に向けた。
どうしよう。
閑田選手が帰ってくれる方法。涼太が怒りを治めてくれる方法。
何にも思いつかない……とにかく、止め
「みわはオレの女だ。今後また同じような事しやがったら許さねえからな。ぶっ潰してやる」