第81章 正真
「悪いけど今俺、みわとデートしてんだけど」
「は、はぁっ?」
閑田選手は、そうアッサリと言い放った。
デート? 誰と、誰が!?
「……デート?」
涼太の声の温度は上がる事もなく、囁くようにそう言った言葉は、冷え切っていて。
「そ。別に珍しい事じゃないだろ、サポートメンバーと選手がくっつくのなんて。俺とみわはもうちっちゃい頃からの仲でさ。結婚の約束もしてっから。許嫁ってやつかな」
「な、なに、いい、なずけ?」
……え?
閑田選手は一体何を言っているのか。
許嫁!?
涼太は表情を変える事無く、閑田選手に冷ややかな視線を送っている。
もしかして、私と閑田選手の関係、勘違いされた!?
浮気、とか、閑田選手が私たちを別れさせようとしてるとか、勘違いされたらどうしよう!
何から説明したら伝わるのかが皆目見当もつかなくて、アワアワと慌てる事しか出来ない。
「あの、違うの、あの」
「で、俺たちに何の用な訳?」
なに、どうして閑田選手はこんなに涼太に敵意剥き出しなの?
それは涼太も然り、なんだけど……。
ふたりの間に稲妻が見えるかのようだ。
突然の一触即発の雰囲気。
「何の用、だあ? 気安くみわなんて呼んでんじゃねーよ」
「……!」
背筋がゾッとするような声色に、言葉を呑み込んでしまう。
どこに、こんな声を潜めていたんだろう。
私の手を握る大きな手はいつも通りなのに、涼太が何を考えているのか、分からなくて。
「汚い手でベタベタ触りやがって」
……さっき、手の甲にされた……あれ、見られてしまっていた!?
まるで閑田選手に掴みかかりそうな雰囲気だ。
気が立った獣のような殺気が肌を刺すのを感じる。
お願い、これ以上涼太を刺激しないで。