第81章 正真
後ろを振り向く事が出来ない。
だってここ、大阪だよ。
新幹線で新大阪駅に降り立ってから、また少し地下鉄に揺られた場所。
東京でも、神奈川でも、関東ですらない。
どうして今の声が聞こえたのか、どう頑張っても説明出来そうにない。
「あんた……黄瀬、涼太か?」
閑田選手は視線を私の後方に固定したまま、口を開いた。
「アンタ誰?」
固く冷たい声……でも、それは私のよく知る大好きなひとの声だ。
やっぱり、涼太だ。
涼太が、なんでここに?
「離せよ」
「あっ」
涼太がそう言ったのと同時に、強い力で閑田選手に捕まったままの手を引かれて……閑田選手から解放されたと思った途端、今度は温かい大きな手に捕まった。
さらりと流れるような黄の髪に、お人形さんのような切れ長の瞳に高めの鼻梁。
鍛えられ引き締まった首筋から肩のライン、袖から覗く筋肉質な二の腕……って、うっかり見惚れている場合じゃない。
「りょ……き、黄瀬、さん」
「なんスかその呼び方、ちょっと新鮮」
ふわっと声が柔らかくなって、向けられた微笑みはさっきまでの声とは別人みたい。
「あ、あの、え、なんでここに」
「後でゆっくり話すっスわ。で、何このオトコ」
……そう思ったのも束の間、涼太の視線は閑田選手に向けられた。
冷たい、冷たい目だ。
「K大エースの閑田秀一だけど」
「お前に聞いてねえんだよ」
その一言で、場が凍った。
涼太……すごく怒ってる。
だって、彼とは面識があるはずだ。
とは言え、格好も場所も違えば、はっきりとは記憶していないのかもしれないけれど。
かつて、涼太が怒ってマクセさんを殴り飛ばした時の光景が蘇る。
「あ。あの、チームの、閑田選手。今帰り道が一緒になって」
どうしよう、こんなに怒らせてしまって、どうしよう。
こんな時間に一緒に居たからかな。
でもどうして涼太がここに?
混乱するばかりで全然言葉が纏まらない。