第81章 正真
「みわ、今日メシはどーすんの?」
トレーニングルームを施錠して、管理室へ鍵を返すと、体育館の入り口で閑田選手はドアに寄りかかり、腕組みをしながらそう聞いた。
「あ……今日は、ホテルでゆっくり食べようかなって」
気が付けばもう夕飯時だ。
頭の中は新しい展開と、今日の練習での感じた事がリフレインされていて、食事まで気が回っていなかった。
「そーなん? みわってひとりだったら何にも食べないようなイメージだけど」
「……そう見えますか?」
「うん」
それほど深い交友もない閑田選手にまでこう言われてしまうなんて……私ってなんて分かり易い人間なんだろう。
「駅前でなんか食ってく?」
チームメイトとして食事をするのにも、慣れてきた。
閑田選手だけではなく、最近は他のメンバーとも積極的に交流をはかるようにしている。
練習外でも何気ない話をする事によって、練習中の意思疎通がスムーズになる。
コミュニケーションの大切さを実感していた。
でも……今日はやっぱり、休養をとった方がいいかも……。
「今日は、少し体調が優れなくて……すみません、またの機会にお願いできますか」
「確かに顔色悪いまんまだもんなー。でもそういう時こそ栄養取らないと逆効果だぜ」
う、まさに涼太にいつも言っている事だ。
「分かってはいるんですけど……」
分かってはいるんだけれど、足が重くて……。
この間、資料作りに没頭しすぎて寝食を忘れ、目の前が霞んでから慌てて蜂蜜を口にしたと話したら涼太に凄く怒られたんだった。
「ま、そういう時もあるよな。お大事に。じゃーホテルの前まで一緒に行くわ」
「いえ、そんな御足労をお掛けするわけには」
「どーせ通り道だからいいだろ。なんか困る事あんの?」
「ない、です……」
ああ、またいつもの彼のペース。
せっせと書類をボストンバッグに詰めて、気合を入れてから肩に担ぎあげた。