第81章 正真
「うお、大丈夫?」
流石の瞬発力で、閑田選手は雪崩れた書類たちを、テーブルの上から滑り落ちる前に全て止めてくれた。
「すみません! ありがとうございます」
何慌ててるんだろう、別にやましい事があるわけじゃないのに。
「どうしたんですか、黄瀬涼太選手の事を聞きたいなんて」
その呼び方に言いようのない違和感を感じながらも、平静を装う。
変な顔をしてしまってそうで、上手く目を合わせる事が出来ない。
「いや、昨日見せて貰ったDVDに映ってただろ。紫原の相手校で」
「あ、そう……ですね」
選手同士だからだろうか、男同士だからだろうか、面識がないからって、呼び捨てはちょっと嫌だな……と思いながらも、そんなのは個人の自由だもの、今気にするところじゃないよね。
「高校時代一緒だったんだろ。タイプ的には俺に近いのかと思ったけど。プレーも体格も」
「そう……ですね。昨日の映像の彼の身長は189センチ、体重は閑田選手よりも少し軽いくらいです。オールラウンダーであるところも閑田選手と同じですよね」
涼太の事を口に出すと、頭の中で自動的に再生されるのは彼の舞うようなプレー。
初めてゾーンに入ったあの姿は、思い出すだけで涙が出てくる。
「へえ、やっぱりそうなんだ。紫原はそれよりも相当デカかったけど、いくつくらい?」
「あ……っと、すみません、当時の紫原さんの情報は一度家に戻らないとなくて。当時から2mを超えていたのには間違いないです」
「……うへーやっぱデカいんだな。まあ詳しくはまた今度でいーや。黄瀬涼太はまだ現役でやってんだろ? ウチと当たる確率あんの?」
「はい、決勝戦で対戦します」
「……はっきり言うね。まだ大会も始まってないのに、勝ち残るって?」
「間違いなく」
涼太の学校とは同じブロックじゃないから……必ず当たる、決勝戦で。
その為にはこっちも絶対に勝ち抜かなければ。
「いつものみわとは思えないほどの断言ってことは、信頼度が高そうだ。気を引き締めていかなきゃな」
閑田選手はそう嬉しそうに言って、不敵な笑みを浮かべた。