第81章 正真
そう言えばさっき軽く見渡した室内には、ところどころに女性の気配があった。
畳んであった洗濯物は、紫原っちには到底入らないであろうサイズだったし。
ふと思い出す。
オレの部屋に、みわの私物って置いてあったっけ?
彼女はいつも遠慮して、荷物はそんなに多くないから大丈夫だと、オレの部屋に何かを残していくような事はしない。
みわがそれでいいならと今まで何にも言って来なかったけど、今度からは何か置いてもらおう。
この存在感はなかなかのものだ。
もし他の女が部屋に来るような事があっても、彼女がいるって事が一目で分かるし、みわに会えない時でも彼女の存在を感じる事が出来るのかもしれない。
なんで今まで気が付かなかったんだろ。
しかし……週に1回、か。
普通の大学生なら、それくらい……それでも少ないくらいだよな、きっと。
そんなの、羨ましいと思ったって仕方ないのに。
頭の中の色んな考え事にモヤモヤしている内に無駄に時間だけが過ぎ、ようやく風呂から上がった時には紫原っちはベッドの上でイビキをかいていた。
時刻はもうすぐ6時になろうとしている。
紫原っちの目が覚めるまでオレももうちょっと寝かせて貰うか……と思ったけど、風呂で目が覚めてあったまった身体では、すぐに眠気が訪れそうにはなかった。
みわ……落ち込んでないっスかね。
念願の父親との再会があんな感じになってしまって……みわは大丈夫だと笑っていたけど、きっと深い悲しみに呑まれそうになっているハズだ。
きっと、共感をしてあげるのは難しいんだと思う。
だってオレの両親は殺しても死なないくらい元気だし、姉ちゃんたちもそうだ。
そこはどれほど想っても、絶対に埋まらない部分。
でも、理解をしてあげるコトはオレだって出来る。
これから先をみわと生きていくために、彼女の気持ちに寄り添ってあげるのなら、オレにだって出来るハズだ。