第81章 正真
ピッという電子音と共に、室内に明るさが戻った。
スマホに表示された時刻を確認すると……午前4時半。
「紫原っちって、早起きなんスね」
「黄瀬ちんのデカいくしゃみで目が覚めただけなんだし!」
「げ、マジっスかごめん」
床に転がされていたとはいえ、情けでブランケットはかけて貰ってたようだから、寒さは感じなかったのに。
どうやら寝てまでも迷惑を掛けていたようだ。
「風呂でも入ってきたら~? 俺は二度寝すんし」
「え、いいんスか」
今すぐ帰れと言われるかと思いきや、まさかの申し出に自然と声が弾んでしまった。
この時間にみわに電話をしても起こしてしまうだけだろう。
ひとっ風呂浴びて、のんびりしてからまた連絡しよう。
「んじゃ、遠慮なく」
常にカバンに下着を入れておいて正解だった。
紫原っちにタオルの置き場所を聞いて、洗面所へと向かった。
鏡に映った顔は、思ったよりも疲れている。
楽しい時間を過ごしたおかげでストレスメーターはだいぶ減ったけど、肉体的な疲れはあまり解消できてないらしい。
ゆっくり入らせて貰おう……なんて思った瞬間、鏡台に置かれたビン類が目に入ってきた。
彼の母校のユニフォームの色によく似た薄いピンク色のボトルが大小3本並んでいる。
オレはその正体をよく知っている。
「紫原っち、カノジョってどんくらいの頻度で泊まりに来るんスか」
「……は~?」
「だってコレ、化粧品っスよね」
そう、並べられたボトルは、化粧水に美容液、乳液だ。
最近よく雑誌に取り上げられる、プチプラコスメとデパートコスメの中間の価格帯で、それなりに効果が得られると評判のラインだった。
「……別に~、週に1回とかしか会わないし~」
分かり易い間を置いて、紫原っちはそう言った。
うわ、紫原っちにカノジョがいる。
モチロン話には聞いてたから驚きはしないハズなんだけど……なんていうか、その存在を生々しく感じるっていうか。すげー新鮮だ。