第81章 正真
個室居酒屋の一室であるここは、照明が暗い。
最初はカウンターで飲もうとしたんだけど、オレのファンに見つかったらうるさそうと言って、この部屋にして貰った。
結局トイレ行ったタイミングで、見事にファンの子に見つかったんスけどね……。
そんで、この微妙な暗さがまたなんつーか、眠気を誘うというか……。
「黄瀬ちんはさ〜、結婚とかキョーミあんの〜?」
「ケッコン、っスか〜?」
だいぶアルコールが回ってきて、なんか紫原っちみたいな語尾になってる。
「けっこ、ん〜……」
頭がポーッとして、今聞かれた質問も忘れてしまいそうだ。飲み過ぎか。
ん、マジで今、何聞かれたんだっけ。
……
……ああ、みわのコトだっけ。
「みわは〜、ちょっと頑張りすぎなんスよねえ、もっとなんつーか、頼ってくれればいいのにって、いつも思うんスけど〜」
紫原っちは、また呆れたような顔をしてグラスに入った赤い液体を飲み干した。
「紫原っち?」
「なんでもねーし。黄瀬ちん、そんなんで帰れんの〜?」
「帰るっスよ〜う。だって帰ったらみわにれんわするんス……」
「呂律回ってねーし……黄瀬ちん、ぜってー吐かないでよ〜?」
「吐かないっスよ〜。気持ち悪いってゆーより、きもちいいんスも〜ん……」
なんだか急に瞼が重くなって来た。
目の周りが熱くなって、あーメチャクチャ気分良い……。
「黄瀬ちん、マジで寝るとか勘弁だかんね〜!?」
「寝てないっ、て……」
あー、すげー、ねむい……。
ちょっとだけ目を閉じたら、回復するかも。
「黄瀬ちん!」
紫原っちの、心底メーワクそうな声が遠くから聞こえる。
だいじょーぶだいじょーぶ、ちょっと目を閉じただけだって……。