第81章 正真
「紫原っち、なんか飲むっスか?」
通話終了をタップし、もうすぐ空になりそうな紫原っちのグラスに目をやってそう声を掛けると、彼は呆れたような顔でこっちを見ている。
「ん? なんスか?」
「黄瀬ちん、鼻の下伸ばしすぎ〜」
「んなワケないじゃないス……」
か、まで言おうとして自分の頬に手を当ててみて驚いた。
だいぶ緩んでいる。
みわの声を聞いたからだろうか。
「気のせいっスよ、気・の・せ・い!」
やはり旧友に指摘されるというのはどこか気恥ずかしくて、何故か必死に否定してしまった。
「……ま、いーんじゃない、そーゆーのも〜」
紫原っちは、少し微笑んだように見えた。
彼がそんな風にするのは、本当に珍しい。
そう言えば、紫原っちも付き合ってる彼女がいるんだとか。きっと恥ずかしがって話してくれないだろうから、酒が飲めるようになったら聞くことにしよう。
「で、なんでこのタイミングででまたバスケ始めるんスか?」
バスケを始める、というのが正しい表現でない事は分かっている。
皆、趣味では続けていた筈だから、バスケ自体は変わらず身近にあったものだろう。
競技として、というべきなんだろうが、アルコールの回った頭では咄嗟に出て来なかった。
「ミドチンがまたやるって言い出したのがきっかけ〜。ミドチン、母親が体調悪くてバスケやめてたみたいだけど、元気になって退院したんだって〜」
「そうだったんスか」
てっきり、緑間っちは勉強に集中したいからやってないのかと思い込んでいた。
彼は医学部だ。学校名までは忘れちゃったけど、確かバスケ部はなかった……か、名前が売れないほど弱いかどっちかなんだろう。
いや、多分前者かな。
緑間っちなら、チームが弱かろうが強かろうが、バスケ部があったら入ってる気がする。
話を聞けば、かなりのメンツが集まっているらしい。
火神っちと青峰っちはアメリカにいるし、桃っちも青峰っちに付いて行ってる。
オレは国内にいるけど、バスケ部でバスケやってるから……残念だけど、一緒のチームでプレーするのは機会はないかもしれない。
少し残念に思いながらも、また皆のバスケが見れる事に正直ワクワクしていた。