第81章 正真
『みわちん?』
「す、すみません、はい、聞いてます……紫原さんの言う通り、だと思う」
世の中全部のひとに好かれるなんて無理な話だ。
分かってる。だって、この世界にどれだけの人間がいるだろうか。
紫原さんがくれたヒントを糧に、こころの中に散らばったピースを必死に集める。
「私……好かれるなんて大層な話じゃなくて……嫌われたくない、そう思ってしまっているのかも、しれないです」
自分でこの気持ちに向き合った事がない。
でも、皆によく言われる"気にしすぎ"というのは、こういう部分に起因しているのかな……。
『別にそれが悪いって言ってんじゃないし〜。でも、黄瀬ちんと一緒に居たらそーもいかないっしょ? 敵だらけだし』
「……敵……」
敵だらけ、というのは言い得て妙だ。
才ある人間に集まるのは、善ばかりじゃない。
彼の魅力に引き寄せられて、様々なものが寄り集まってくるのは、よく分かってる。
そして、紫原さんも涼太側の人間だ。
なんて説得力があるんだろう。
『だからさ〜、みわちんはもう少し自分の感情で生きた方がいいんじゃないの〜。別にいーじゃん、誰にどう思われようが』
「自分の、感情で……」
涼太に言われた事だ。
生きてる中で、わがままになること。
『みわちんと黄瀬ちんは、そのうち『あー! 紫原っち! それみわ!? 何勝手に電話してんスか!』
突然スピーカーの向こうに飛び出して来たのは、涼太の声。
『黄瀬ちんが戻ってこないからっしょ〜。トイレ長すぎだし〜。ウンコ?』
『ちょ、みわと電話してんのにそういうコト言わないでくんないスか! 違うし! ファンの子に囲まれてたんスよ!』
わいわいと電話の向こうから聞こえる声に、思わず笑ってしまう。
大好きなひとたちの存在に、こころがあったかくなる。