第81章 正真
画面には、携帯電話の番号が表示されている。
番号の上には何も表示されていないから……アドレス帳に登録されているひとではなさそう。
もしかしたら関係者かもしれないし、無視することは出来ない。
警戒心を拭えないまま、そっと応答をタップした。
「はい、神崎です」
意を決して出たのに、向こうからは何の音も聞こえない。
「……もしもし?」
暫く待って、異変に気が付いた。
向こうから音がしないのではなく、そもそもどこかに繋がっているような空気ではない、というか。
もう少し、ザーザーと雑音が聞こえても良さそうなものだけれど……。
そう思い再び画面を見ると、表示されているのは通話画面ではなく、普段見慣れた壁紙が映し出されるだけだった。
どうやら、タッチの差で切れてしまったらしい。
電話のアイコンに1と書かれた赤い丸がついているのを見て、アイコンをタップしようとしたら……また突然スマートフォンは着信を告げ始めた。
「わ、わっ」
言葉通り飛び上がらんばかりに驚いて、画面をロクに見ないまま応答してしまった。
「は、はい神崎、です!」
『もしもし〜、みわちん?』
「えっ、あっ、あれ?」
この少し甘みを含んだ特徴のある声。
そして、私のことをみわちんと呼ぶのはひとりしかいない。
「……紫原、さん?」
『うん〜。今ヘーキ?』
「あっ、はい、大丈夫、です」
思いもよらぬ人からの電話に驚いて、涙も吐き気も引っ込んだ。
『今黄瀬ちんと飲んでるんだけど〜』
「あ、そうなんですね」
意外な組み合わせに驚き……と言っても、確かふたりは中学生時代、同じクラスだった事もあったとか。
どんな感じだったのかな。中学時代のふたり。
噛み合っていないようで噛み合ってるような、不思議なあのふたりの感じ、好きだなぁ。