第81章 正真
閑田選手が部屋を去って静寂が辺りを包むと、言い様のない不快感がみぞおち付近に滞留してくる。
それをなんとかしようと、慌ててペットボトルの中のものを流し込んだのが逆効果だったのか、突然吐き気を催し、駆け込んだトイレで胃の中の物を吐き出してしまった。
「ぅ……」
なに、やってるんだろう。
全然強くなんかなれていない。
どす黒い気持ちをこうして水とともに流してしまいたい。
意識して深く呼吸をすると、次に感じたのは下腹部の違和感。
ふと思い出し、確認すると下着に赤黒いシミ。
毎月女をやめたくなる、月のものが来てしまっていた。
もしかして、気持ちがぐらぐらしてたのはこのせいだったのかな。
ホルモンが不安定だったのかも。
そうだ、きっとそうだよ。
嫌な事を思い出してしまったのも、きっと……。
ぶるりと震える身体を抱きしめるようにしながら部屋に戻り、生理用品と新しい下着を手に再びトイレへ。
ドアを開けるまでに、何度も後ろを振り返った。
大丈夫。ここはホテルの小さな部屋。
他にひとがいるわけないじゃないか。
分かってるのに、そう分かっているのに震えが止まらない。
一旦落ち着いたと思った頭の中の映像が、また鮮明に流れ出す。
突然のフラッシュバックに動揺しながら、便器に座る前に、もう一度激しく嘔吐した。
体調が悪いから。大丈夫。今だけ。
ドコンドコンと痛み始めるお腹をさすりながら、下着を替えた。
涙に濡れた頬を拭いて、部屋に戻って水を飲んだ。
何が原因で脱水症状になるか分からないし、吐いたから余計に水分は取らないと。
ペットボトルを掴んだ手が小刻みに震えてる。
お風呂に、入った方がいいかな。
でも今裸になるのは少し不安だ。
資料まとめをしよう。気分転換にもなる。
部屋に備え付けてあった電気ケトルでお湯を沸かし、白湯を飲みながらデータ整理に勤しむ。
いつも通りの事をしたいのに、足が動かない。
ロボットのように軋む足をなんとか動かしてベッドへ座り込むと、それを見計らったかのようなタイミングでスマートフォンが着信を告げた。