第81章 正真
「みわ、大丈夫か」
「え」
「唇、紫になってる」
そう言われて、自分の唇に指を当ててみると、確かにひんやりと冷たい。
「あ……冷房で、冷えすぎてしまったのかもしれません」
閑田選手は、オイオイと言いながらポリポリと頭を掻いた。
「なんかみわって、なんつーか……」
「あ、冷え性というだけで、大丈夫です。具合が悪いわけではありません」
正直に言うと、冷えてるとか寒いとかいう感覚はないんだけれど……私自身のことで閑田選手に余計な心配をかけたくない。
「いや、そうじゃなくて……なんつーか、加害者を擁護する気は全くないけど、なんかこう、みわってさ、なんか狙われやすそうっつーか」
「やっぱり、そうなんですね……」
閑田選手は非常に言いにくそうにそう言ったけど、妙に納得してしまった。
お母さんの言葉に間違いはないみたいだ。
私が全ての原因だって。
「いや、変な意味で捉えないで欲しいんだけど。100パー加害者が悪いのには変わりない。けどなんか、危なげっつーかさ……」
「……今以上に気を、つけます。ご迷惑がかからないように」
自分は無知だという事実を知る事が必要だと、昔の偉いひとも言っていたもの。
もっともっと、強くならなきゃ。
「……今日はもう帰るわ。悪かったな」
「お気を遣わせてしまって、すみません」
バスケの話だけではなく、不要な心配までさせてしまった。大反省だ。
私はサポートスタッフとして、選手達を支える存在でなくてはならないのに。
「みわ」
閑田選手は、ドアを開けようとノブを掴んで、振り返った。
「はい」
「人が良いってのは、確かに長所だとは思う。誰にでも真似できるもんじゃない。でも、いざって時に自分を守れるズル賢さを身に付けないと、呑まれるぞ」
「いざという時に……」
いざという時に、自分を守れるように。
そうだ、いつも私はそれが出来ていなくて……だからあの時も。
私が、もっとしっかりしていれば。
もっと強ければ。