第81章 正真
ブザーと共に、試合が終了する。
この試合は僅差で陽泉の勝利だった。
陽泉との試合は、いつもロースコア……紫の壁の高さと厚さを感じる。
バスケ、大好きなバスケ。
少しずつ、気持ちが凪いでくるのが分かる。
良かった。大丈夫だ。
閑田選手と、紫原さんのプレーについて少し議論して、買ってきたペットボトルのお水で喉を潤した。
自然と出て来る深いため息。
「……みわさ」
「はい」
やっと、閑田選手の顔を見る事が出来た。
彼は少し眉を下げて、言葉を選んでいるみたいだ。
「今日は……本当、悪かった。男が苦手って言ってたから、あんま好きじゃないとかうまく喋れないとかそういう感じかと思ってたけど、見た感じそういうレベルじゃないよな」
ギクリと軋む心臓に合わせて、頬が引きつるのを自覚する。
上手く説明できる自信なんか、ない。
「すみ、ません……」
「いや、それはいいんだけど。俺も知らずにごめん。でも、こういうのは絶対にやめておいた方がいい」
その表情があまりに真剣で、二の句を継げないでいると、閑田選手はそれを察したのか、続けて口を開いた。
「密室でこんな風に信用出来る奴と出来る範囲をしっかり見極めろ。男なんて、ヤレりゃいいって奴がごまんといる。既婚未婚なんて関係ない。気を許すな」
気を、許すな……。
多分、閑田選手の言っている事は正しい。
でもなんだか、うまく言えない……。
「いや、こんなん言ったら人間不信になるよな……そうじゃなくて、なんてーか、気を許す範囲に気をつけろっていうか」
うまく言えねー、と彼は頭を掻いた。
「女だって、ちょっと酒の勢いに任せて彼以外のモノをつまみ食いしちゃおうかな、なんて奴が結構いるわけ。そういう女が当たり前だと思ってる男は、気軽に誘うわけ。そーゆー価値観って、絶対に埋まんないから」
閑田選手はサラッとそう言うけれど、その事実に驚いた。
ちょっと? お酒の勢いに任せて?
つまみ食い?
全くピンとも来ない理由だ……やっぱり私は、世間知らずすぎるんだろうか。