第81章 正真
なんで、女ってこんなに弱いんだろう。
どうして、この手を振りほどけないんだろう。
大きな声を出して、体を動かして……そうだ、舌を噛む、っていう方法があった。
どうすれば、どうすればいいの。
頭の中を濁流のような感情が右往左往する。
声を出さなきゃ、って思って振り絞ったけれど、音が出ているのかどうかも定かではない。
「みわ」
恐らく私の名前だった筈のそれが遠くに聞こえてきて、手の動きが……止まった?
「みわ、おい、おいってば」
何、が、起こったの?
ぼやけていた視界の焦点が、段々と定まってくる。
「みわごめん、悪ふざけが過ぎた! 死ぬな!」
死ぬ、な?
悪ふざけ?
両手が解放されたのを感じて、反射的に起き上がり、ひたすらに後ずさりをした。
ベッドのシーツが氷のように冷たく感じる。
息苦しさが、なくならない。
「みわがあまりに無防備に部屋に招き入れるもんだから、冗談だよ、冗談。こんなに驚くとは思わなくて……ごめん」
「じょう、だん」
「ごめん、ホントにごめん。ちょっとからかってやろうと思って」
差し出された手を、思わず払いのけてしまった。
「みわ」
「すみま、せん。私、勘違いして」
冗談?
冗談だった?
私、こんなに過剰反応して、申し訳ない事をした。
そう思うのに、震えが止まらない。
濁流の勢いがおさまってきたと思ったら、見えてきたのは水底に沈んでいたあの時の光景。
思い出しちゃ、思い出しちゃだめだ。
うまく蓋をして、明るく振る舞わないと。
「あの、DVD、観ましょう。すみません、私冗談が、通じなくて」
ぐちゃぐちゃだ。
とにかくDVDをデッキに、あれ、ディスクどこに、置いたんだっけ、あれ
「……そうだな、観よう、DVD」
閑田選手は、床に落ちていたらしいディスクを拾い上げて、デッキへとセットしてくれた。
すぐに再生されて、画面にはバスケのコート。
白とピンクのユニフォームに対峙するのは……見慣れたブルー。
踊るようにドリブルをする黄色いその姿が映って……何故か息苦しさが、おさまった。