第81章 正真
結婚……正直、全くと言っていいほどイメージが湧かない。
涼太が新郎さんで……タキシード……白の……ああ、素敵だろうなあ。
でも、その隣にいるのはお人形さんみたいに綺麗な女のひと。
純白のウェディングドレス姿で、幸せそうに微笑んで。
並ぶと、まるで映画の撮影かと思われてしまうほどの存在感をもったふたり。
見ているだけで幸せになるような空気をふりまいていて……。
そういうのしか、想像出来ない。
だって、結婚って言ったら、それはつまり家庭を持つという事で……
……家庭の記憶がない私が、良い家庭を築けるとは全く思えないんだ。
どんな角度から見ても、私と涼太が結婚するだなんて、たとえ妄想でも出来ないんだもの。
「そっか、みわは秀ちゃんと結婚するんだもんな。俺はいいぜ、大歓迎」
「いえっ、それは、その、もう本当に忘れてください」
過去の私、本当に何言ってるの。
結婚……大人になればなるほど、そんなに簡単じゃない事なんだって、実感する。
「なーんか……彼氏が気の毒だよなあ」
「え……?」
「いやまあ、こっちの話」
「私の話はいいんですけど、閑田選手、もう少しですね」
「閑田さん」
……。
確かに閑田選手だけこの呼び方……なんか感じ悪い、かな。
「……閑田、さん」
「うん、なに?」
一転して満面の笑み。
ペース、握られてしまっているかな……。
「あの、リバウンドの着地時のポジション取りなんですけど」
バスケの話を始めたら、閑田選手は大きな大きなため息をついた。
「恋バナから一転してバスケの話かよ……どんだけ……で、ポジションがなんだって?」
「あの、今の飛び方だと、足がこう……こうなって着地しやすいので、怪我をしやすいんです」
眉毛が上がって、興味深そうな表情に変わった。
関心を持ってくれたみたい。
「これだと膝の柔軟性がなくなって、もし他の選手の足を踏んだりしたら、間違いなく怪我をします」
「ふーん……どうすればいいわけ?」
「まずは右足を……」