第81章 正真
あの日、結局お墓の近くにあったカフェでお茶をして……
「じゃ、みわ、またね」
「うん……また」
車中でのお別れのキスは、額にそっと触れるだけだった。
「そっか……親父さん亡くなってたんかー……それは、ご愁傷様でした、残念だったな。んで、墓参り行って来たんだ」
「そうなんです」
「だーかーら、敬語やめてって」
「う……そう、なの」
怪訝な面持ちのまま、目の前で牛丼を頬張るのは閑田選手。
大阪に来るなり、また食事に行こうと誘われて。
「式はいつにするか決まってんの? インカレ終わってから?」
……?
式?
「式……? ううん、お父さんが亡くなったのはもうずっと前だから、お葬式はもう今はしないよ」
そう返すと、閑田選手は口の中のご飯を吹き出しかけた。
「待ってそれ、天然?」
「天然……? 何かおかしい事、言った?」
「違うっつーの! 結婚式のこと!」
結婚式!?
けっこん!?
「えっ、お、お父さんと!?」
「みわ、アタマ大丈夫!?」
「さ、さっきから難しい事言うのは閑田選手では!?」
閑田選手は、大きなどんぶりを机に叩きつけるように置くと、深い深いため息をついた。
「難しい事なんかいっこも言ってないだろ! 彼氏と墓前で結婚の報告したんじゃないのかよ!」
「!!?」
思いもしない単語に、ご飯粒が気管に入りそうになって、慌てて水を流し込んだ。
「お嬢さんをください、じゃないのかよ」
テレビドラマで見たことがあるような。
リビングで男性が相手のお父さんの前で深々と頭を下げて……。
「ごほ、そ、そういうんじゃないと思うけど……」
「何、こないだから思ってたけど、みわって全然結婚願望とかないわけ?」
「けっこんがんぼう」
結婚、願望。
結婚したいという気持ち。
……誰と誰が?
もしかして私と、涼太が?