第81章 正真
今まで、私はあまり多くのものを持っていなかった。
それが、涼太と出逢ってたくさんのものを貰って……欲が出たのかな。
お父さんに……自分の家族に会いたいと思ってしまったのが分不相応だったのかもしれない。
「ウマいっスね、ここ」
「うん……おいしいね」
こうして、私のためにと一緒に来てくれて、心配してくれて……これ以上何かを求めるなんて、贅沢だよ。
バチが当たってしまうよ。
家族のことは、確かに知りたい……けど、今あるものを蔑ろにするようなことは、絶対にしちゃだめだ。
いざという時に選び取れるように、自分の中の大切なものを大切にすること。
涼太と約束したこと。
ものすごくシンプルで、ものすごく難しい。
ものすごく簡単で、その実とても複雑。
こころって、きっとそういうものだ。
私は、涼太に魔法をかけて貰ったカボチャの馬車。
せっかく助けて貰った命、必死に使おう。
彼がいなかったら、今ここに生きていられたのかも分からない。
お父さんの事は……悲しくて、どう表現したらいいのか分からない気持ちだけど……それが原因で、涼太に気を遣わせるような事はしたくない。
「涼太……今日は本当に、ありがとう。ちゃんとお父さんに会えて、良かった」
「ん、それなら良かったっスわ。オレも……一緒に、来たかったし」
会ったこともないお父さんなのに、涼太はこんなにも良くしてくれて。
悲観的になる必要なんてない。
これからはゆっくり、お父さんの歴史を辿っていくことにしよう。
空から、見てくれてるかな。
「涼太も、また夏合宿が始まるよね。私も……大阪に行く時間、増えると思う」
「そーっスね……なんだかんだしてるうちに、インカレもあっという間に終わりそうっスわ」
私たちふたりとも、向かうべき場所があるから。
優先順位って、それぞれがどれだけ大切かを実感して、きちんと気持ちを整理して初めて付けられるものなんだ。
もっともっと、丁寧に生きなきゃ。