第81章 正真
鼻をすする音で、意識がこっち側に帰って来た。
合わせた手のひらに、少し汗が滲んでる。
全く自分らしくない緊張具合に笑えて来るっスわ。
目を開けると、目の前には位牌。
そう言えば、書かれている文字をちゃんと見ていなかった。
どれもこれも同じようなコトが書いてあるのかと思ったけど、ちゃんとした意味があるんだろうか。
「……この、真ん中に書いてあるのってなんなんだっけ」
みわは、さっきから位牌を見ていない。
ここに来てから、一度もだ。
受け入れる心の準備が出来ていなかったんだろう。
でもやっぱり、ちゃんと見て欲しい。
受け入れられなくてもいいから、ここにちゃんとみわのお父さんがいるってコト、目に入れて欲しい。
「戒名、だよね。亡くなった後に付けてもらう名前なのかな……? 宗教によっては呼び方が違うっておばあちゃんから聞いたことあるけど……」
その、カイミョウってやつは全然意味が分からない。
平仮名一切ナシの漢字がズラッと並んでいて、見てるだけで頭が痛くなりそ……いやいや、んなコト言ってちゃダメだって。
「読み方すら全く分かんねーっスけど、じゃあこの左右の日付けは……」
「お位牌には、没年月日……亡くなった日が書いてあるはず……」
みわがようやく視線を位牌に向けた。
そして……その顔がすぐに強張った。
「……え」
「みわ?」
みわの動揺の意味が分からなくて、オレも再度位牌を見てみると……
「……7月」
7月7日、間違いなくそう書いてある。
その上に綴られている年を見る限り、オレたちが小学生の頃に亡くなったらしい。
みわの誕生日が命日?
もしかして、みわの誕生日の記憶が曖昧だったのはこれが原因?
「……みわ、今日はもう行こっか。またゆっくり会いに来よう」
位牌に向けて深々とお辞儀を済ませ、少し震えたみわの肩を抱いて、駐車場へと向かった。