第81章 正真
みわは、再びお焼香をし、そっと手を合わせて、明日腫れるであろう目を閉じた。
そのまま、暫しの沈黙……一体、何を考えてるんだろう。
足音を殺して、背後に移動する。
父親と、喋っているのか。お父さんごめんね、そんな風に謝ってやしないだろうか。
みわがこのまま小さな仏壇に吸い込まれて行ってしまいそうで、言いようのない不安に襲われる。
後ろから両肩を掴みそうになって、すんでの所で両拳を握りしめた。
みわはゆっくりと振り向く。
幸いにも、気付かれてはいないようだ。
「……ありがとう、涼太。連れて来てくれて。来れて良かった。私はもう、満足だよ」
「そっか、良かったっスわ」
「……ここ、誰かお参りに来てくれているのかな。お父さん、寂しくないのかな……」
みわは、買って来た花に視線を動かして、またすぐ足元に移してしまった。
仏壇の中には、みわが買って来た花だけだ、心配するのも分かる。
でも……。
「来てると思うっスよ。この間来た時は花とお供え物があったし」
「この、間……?」
しまった。
つい、みわを安心させようとそればかりが先に立って。
「あー……あの、なんつーか」
「前にも……来てくれたの?」
オレのバカ。
ここまで来たら隠してても意味が無い。
「勝手に来てごめん。お祖母さんに教えて貰って、来た事があるんスよ」
「そうなんだ……ありがとう、涼太」
さっきよりも、声に水分が増してる。
今すぐ抱きしめてやりたいと思うけど、そこはわきまえてるつもりだ。
「オレも、挨拶していくっス」
「ありがとう」
少し掠れたありがとうに背を押されて、位牌の前に立つ。
やっぱりキンチョーする。
姿は見えないけど、なんかすぐそこで見られてる気がして。
こんにちは。
この間も来た、黄瀬涼太……です。
みわのコト、見てくれてますか。
みわ、めちゃくちゃ頑張ってるんで、見ててやってください。
オレがこんな事言うのもヘンかもしんないんスけど。
なんか、しょーもない事をウダウダ頭の中で発して、最後に……この間言えなかった誓いを捧げた。